ファイアーエムブレム聖魔の光石のゼトxエイリークの二次小説を書いてます。総もくじからおはいりください。
楽園
2008-09-11 Thu 11:51
 戦後、平和を取り戻しつつあるルネスの、花咲き乱れる王宮の庭で、サファイアの王女は親友と、護衛の竜騎士をまじえて、愉しくお茶を飲んでいた。
「クーガーったら」ターナが呆れて笑う。「ヨシュアのいたずらなのよ、あのサーガは。いままでずっと信じてたの?」
「おれは、ゼトはすました顔をしてるくせに、本性は意外と激しいと知ってたから......」クーガーはしどろもどろになる。「あんたをバルコニーからさらって、駆け落ちしようとしても、おかしくないなと」
「おかしいでしょ!」ターナは笑いころげた。エイリークも大笑いしている。「将軍が駆け落ちするわけないじゃない。常識人の見本だもん。ねっ、エイリーク」
 竜騎士は肩をすくめた。「だけど、ゼトはかなり猫をかぶってると思うぞ。あいつは砂漠で......」


 熱風が巨大なジャハナ城の中を吹きぬける。ところどころに油の仕掛けがなされているのか、轟音と共に火柱が立ち、みるみるうちに床が、柱が、天井が、真っ赤な炎の舌になめられていく。熱でもろくなった壁が崩れ落ち、逃げ道をふさごうとする。
「急げ!」声を枯らしてゼトは叫ぶ。「脱出したら、すぐに重騎士隊、騎士団は隊列を組み、指揮官の指示に従え! 城外のグラド軍にそなえよ! 負傷者を守れ!」
 出口付近まで、部下たちを叱咤激励しながら、走り出たゼトを、王子や王女たちはほっとした顔で出迎えた。
「将軍、やはり思った通りだったな」ヒーニアスが厳しい顔で汗に濡れた髪をかきあげる。「グラドめ、我々がいぶりだされるのを、城を囲んで待っていた」
「これから、どうしますの?」ラーチェルは、こわばっているヨシュアの背中を片手で優しくぽんぽん叩き続けている。「あたり一面、砂漠で隠れるところはありませんわ」
「......ロストンに向かいましょう」エイリークが決断した。「囲みを突破して、逃げ切ります。ここで四方八方から攻撃を受けているままでは、消耗するばかりです」
 見れば、壁となっているルネスやフレリアの騎士たちは、砂漠での戦いに慣れたグラドの残党に、少しずつ、しかし確実に、傷つけられていく。
「ロストンなら、あっちの方角だ」クーガーが指差した。
 しかし、エイリークは首を振った。「あそこから囲みを崩します」王女が指差したのは、弓隊だった。「弓さえなければ、フレリア軍が自由に動けます」
「うん、まかせといて」ターナもしっかりうなずく。「ありがとう、エイリーク。弓が減れば、わたしたちの犠牲も減るもの」
 ルネス王女は振り向いた。「クーガー、あなたも天馬騎士団と協力して、重騎士隊と騎士団を援護してください。彼らは砂漠では、自由に動けません」
「わかった」竜騎士は神妙にうなずく。「信用してくれて感謝する」
 碧玉の王女がびっくりした顔になる。「当たり前です」そして微笑んだ。「みんなで助かりましょう」
「エイリーク、あんた、いい女だな」ヨシュアがしゃんと背をのばした。「足の遅い奴を捨石にして、自分たちだけで天馬に乗って逃げようって言わないところが気に入った。ああ、みんなで助かろうじゃねえか」
「さすがはわたくしの親友ですわ」ラーチェルはにっこり笑うと、ヨシュアの背中をばちんと一発叩いて、エイリークの手をしっかり握った。「さ、行きますわよ。ロストンに帰ったら、あなたは特別にわたくしのお部屋にご招待しますわ」
「え、ええ」エイリークはとまどい顔で微笑むと、赤毛の護衛騎士を見上げた。「ゼト、いまは騎士団の指揮をお願いします」
 ルネス騎士団長は表情を動かさずに即答した。「かしこまりました。では、一時、おそばを離れることをお許しください。我々が先頭で矢を受けながら前進します。弓隊、魔導師が我々の後方から、敵の弓部隊を攻撃。傭兵部隊と天馬騎士団には、しんがりをつとめてもらいます。敵の弓隊が全滅したら、足の速い部隊を先頭にロストンをめざしましょう。我々騎士団は、後方からの追手を防ぎながら、皆のあとを追います」
「弓が全滅したら、天馬騎士団はルネス騎士団を空から援護し、共にしんがりをつとめよ」ヒーニアス王子がシレーネたちに命じる。「よいな、皆で協力して、ひとりでも多く生き残るのだ」
「はい!」「王子、万歳!」
 エイリークが頬を紅潮させる。「ありがとうございます、王子。フレリアの皆さんも」
 ゼト将軍は馬にひらりと飛び乗った。「伝令! 全軍に指示を伝えよ。重騎士隊、騎士団はこれより私に続け。壁を作る! では、王女様、号令を」
 エイリークはすらりとレイピアを抜き、天を指した。「皆で生きのびます! 出発!」あえて出撃、と言わずに王女は叫んだ。
「出発!」「出発!!」口々に叫んだ重騎士たちは分厚い装甲を並べ、足音を轟かせて前進していく。
「行くぞ!」「かまえー!!」騎士団も一斉に盾をかざし、矢を防ぎながら馬を進める。
 そのうしろにわらわらと集まったスナイパーたちは、あえて敵に照準を合わせず、自慢の強弓で高く高く天を狙った。「放て!!」天高く飛んだ矢は、射手の早業のおかげで、たちまち千もの矢の雨となり、敵の頭上にふりそそぐ。
 ゼトたち、騎士の壁が邪魔で、急遽とった作戦だが、意外とこれが当たった。頭上が無防備だった軽装の弓兵たちは頭、顔、首を射抜かれて、次々に倒れた。
 すぐに真似ようとしたグラド兵を、今度は光の矢と雷撃と火球が襲う。
「足をねらえ!」ゼトやカイルが叫ぶ。「魔導師は足をねらえ!!」
 弱いながらも、網のように地をはう魔法が、敵の動きを封じた。まごついているグラドの弓部隊を、ずしんずしんずしん、と重騎士隊が押し倒し、踏みつぶしていく。騎士団も盾で殴り、剣で薙ぎ、敵の身体を馬の蹄にかけていく。
「敵、弓隊全滅!」
「傭兵団、魔導師、前へ!! 騎士団は後方の敵にそなえよ!」
 それまで、グラドの追手を食い止めていた傭兵団は、素早く重騎士隊と位置を入れ替え、負傷者やシスターたちを守りながら、ロストンに向けての脱出行を開始した。
 しんがりをつとめる騎士団は、あとずさりながら、迫りくる敵をふさぐ壁を作る。
 ゼトの背後でヒーニアスの声が響いた。「天馬騎士団、攻撃を待て! 弓隊、かまえ!」
 ラーチェルの声もする。「皆様、よろしくて? さん、はい!」
 エイリークの声がした。「騎士団! 撤退です!! 撤退!! 逃げ遅れないで!!」
 弓も魔導師部隊も、騎士団を見捨てなかった。負傷者たちを傭兵団にまかせて、先に逃がしたあと、騎士たちの背後から援護しようというのだ。
「放て!!」王子の声と共に、再び矢の豪雨が降る。地面を魔法の網が這う。「放て、放て、放て! ......よし、弓、撤退!!」
 その間に重騎士たちは、エイリークの命令どおり、先発隊のあとを追って、できるかぎりの速さで逃げていた。騎士たちも、疲れきった馬をはげましながら、必死にロストンの方向をめざす。
 敵が体勢をたてなおす前に、天馬騎士団が上空から白い雲のように襲いかかり、おそらくは拾い集めたらしい手槍、鉄の槍、銀の槍、はては大剣や斧までも、敵の頭上に落としていく。
 あがる悲鳴。血飛沫。
 天馬騎士団は、フレリアの優美な戦い方を忘れたようだった。大切な仲間を守るために、もはやなりふりかまっていなかった。飛び去っては拾い集めた槍や剣を落とし、何もなくなると、死者の鎧を、兜を、盾を、石を落とし続けた。
 こうしてあっという間に十分の一にまで減ったグラド軍の生き残りは、ついに、ルネス騎士団の壁に追いついた。さすがに残ったのは、運も強く、反射神経のよい勇者や剣士ばかりだ。
 ゼトは叫んだ。「重騎士! 壁を作ったまま撤退を続けろ! 騎士団! 負傷していない者のみ戦え! 足手まといになるな!」
 クーガーはちらりとルネス騎士団長を見おろした。おかしい。あの汗のかきかた。むしろ青く見える顔色。左腕をかばうような動き。
 ......あいつこそ、相当、重傷を負ってるんじゃないのか? この砂漠とさっきの炎の熱で、弱ってるんじゃ......
 竜騎士は眼の端でターナの姿を見守りつつ、ゼトを援護することにした。地上部隊を実質的に動かして統率しているのは彼だ。ゼトが倒れれば士気が落ちる。へたをすれば壊滅だ。
 それでもゼトは見事な戦いぶりを見せていた。あいかわらずの無表情で銀の槍を振り回し、一度に傭兵三人の首を叩き折り、味方の身体の隙間から槍を繰り出し、あわや殺されそうになっている部下を間一髪で救い、背後から襲ってきた傭兵の剣を、あぶみからはずした長い右脚で蹴って飛ばし、槍の石突で胸骨を心臓ごと砕く。
 端整な横顔に返り血を浴びつつも、すっきりと馬上で背を伸ばし、凛々しく槍をふるい続ける姿は、さながら軍神のようだった。「重騎士隊、止まれ!! 騎士団、壁のうしろへ!! ここで全滅させる!!」
 敵は数を減らしたのに、まだまだ突撃してくる。「人質をとれ!」「王女を捕らえろ!」「王女はどこだ!」
 その声に反応したゼトは、「カイル、フォルデ、ここは頼む。あとひとふんばりだ」と叫び、最前線を抜けて、魔導師や弓隊に守られている一団に向けて、馬を走らせた。
 砂の中、いかに名馬とて足をとられ、歩いているほどの速さしか出ない。いつの間にか、血まみれの巨大な斧を振り回して、重騎士隊の壁を突破してきたらしい傭兵の一団が、恐ろしい速さで王族たちに迫っている。
 ヒーニアス王子の矢が銀に輝き、たちまちのうちに三人を倒した。
 ラーチェル王女の魔法がふたりを気絶させる。
 エイリーク王女は真剣な顔でレイピアをかまえ、向かってくる凶戦士を迎え撃とうとしている。
 大男があと三歩でルネス王女の腕をつかむ、という瞬間、男の胸から、突然、槍の穂先が飛び出した。
 エイリークがはっと顔をあげると、はるか遠くからゼトが、銀の槍を投げて姿勢を崩したまま、馬を必死に走らせてくる。「エイリーク様!」
「ゼト、うしろ!」王女が悲鳴をあげ、将軍が咄嗟に腰の剣を抜いたと同時に、上空を黒い影がさっと横切り、風圧と同時にクーガーの槍が敵の顔面を貫いた。
 クーガーはゼトの無事を確認すると、そのまま飛び去ってターナのそばに戻っていく。
 その間に、ゼトは馬から飛び降り、信じられない速さで走って傭兵たちに追いつき、追い越しざまに、立て続けに五人、斬り捨てた。
「も、申し訳、ありません。エイリーク、様の護衛を、おざなりに......」全力疾走したせいか、普段はほとんど息を乱さないゼトが、珍しく声を震わせていた。「私は、護衛を、おそばを離れ......」
 王女はかぶりを振る。「いいえ。いま、こんな状態の騎士団を動かせるのはあなただけです。それに、あなたはいまもわたしを守ってくださいました。ありがとう、ゼト」
 ゼトの顔色が少しずつ戻ってくる。「恐れ、入ります......まもなく、敵は全滅、もしくは、敗走すると思われます。じきに前線から知らせが」
「お兄様! エイリーク!」ターナの明るい声が天から降ってきた。「勝ったわ!! 残党は引き上げていく。いまのうちに逃げましょう!!」
「ええ!」王女は元気よくうなずき、将軍を振り返って、口ごもった。馬に飛び乗ったゼトの表情は、砂漠の太陽の逆光でよく見えないけれど、なんだかとてもやつれているみたい......まさか、傷がまた痛むのかしら......
 ゼトは王女たちにくるりと背を向け、落ち着いた声で指示を出し始めた。「伝令、先発隊に我々の無事と戦闘の終了を伝えよ。さらに、負傷者の手当てができそうな場所を探せ。休息が必要だ」
 天馬騎士たちが次々に飛び去っていく。
「さあ、行きましょう、エイリーク。あらたな追っ手がかからないうちに」「我々が一刻も早く先発隊に追いつけば、それだけ騎士たちの仕事が減る」「わたくしたちは賞金首ですわ。傭兵くずれのならず者にも襲われかねませんのよ。ここはジャハナですもの」「そのとおりだ」
 ラーチェルとヒーニアスにうながされ、エイリークはうしろを振り返り、振り返り、砂の中を歩き始めた。
 それを見送ったゼトはほっと息をつき、苦痛に顔を歪めながらも、敵や味方が残した馬を集めて、その背に負傷者の身体をかつぎあげるのを手伝った。
「よう」大仕事をひとまず終えて、みずからの馬にまたがり、最後尾を歩きだしたゼトの傍らに、周囲の偵察を終えてきた飛竜が舞い降りた。「......少し休め。あんたに倒れられたら、この軍も倒れる」
 ゼトは震える右手で、ようやく頬の返り血をぬぐいとっていた。「さっきは助けられた。礼を言う」
 竜騎士は照れ屋なのか、ふいと横を向く。「おれを騎士団に誘ってくれたからな」
 ゼトはふっと力なく笑った。「我々は必ず宿願を遂げ、ルネス再興を果たす。きみはきみの宿願を遂げたら、ぜひルネスに来てくれ。歓迎する」
「宿願......ああ、おれは必ず」まだ血のかわかない手袋を見おろし、クーガーはつぶやいた。「かたきをとる。そのためなら、どれだけ同胞の血を流そうと、罪を重ねようと、死んでも......」
「死ぬな」燃え盛るジャハナ王宮を脱出し、灼ける砂漠の中を、手負いの軍勢の指揮をとり、自らも戦い続けたゼトは、別人のようにやつれ、もともと細い身体をさらに痩せさせていた。「私は死なん」
 ゼトの様子はいつもと違った。落ち窪んだ眼で宙を見据えて、自分に言い聞かせるように、祈るがごとくつぶやいている。「あの世からの御使いを蹴散らしてでも、絶対に死ぬな......私は......死なん......」ゼトは苦しげに息を吐いた。「生きる」
 げっそりと頬がこけた顔の中で、眼だけが光っている。いつも冷静で、表情を変えないゼトとは思えなかった。貪欲な、獣のような、鬼気迫るほど、ぎらぎらとした眼。
 クーガーの肩から、ふっと力が抜けた。「神の聖騎士が、ずいぶん罰当たりなことを言う」天上の楽園に、魂を導いてくれる天使さえ蹴散らせとは。
 これほど激しい男だとは知らなかった。
 これほど生に執着する男だとは思わなかった。
 むしろ、表情ひとつ変えずに、主君のために命を捨てると言う男だと思っていた。この男が、これほど欲望をむきだしにするとは、想像もしなかった。
「変わった聖騎士だな、あんた。神の怒りが怖くないのか」
「神の怒り......そんなもの......」よほど具合が悪いのか、熱が高いのだろうか。顔が火照ったように赤く、声に力がない。「......私は......王女様の護衛騎士だ」一瞬、声に張りが戻った。「......私の居場所は、神の楽園ではない......王女様の傍らだ......」



「まあ、ゼトがそんなことを......」エイリークは頬を上気させる。
「じゃあ、クーガーは、そのころから将軍がエイリークのことを好きだって、知ってたのよね?」ターナが眼をきらきらさせて、ぐっと顔を寄せる。「そんな情熱的な言葉を聞いたんなら」
「じ、じょうねつ......」竜騎士はむせた。「いや、おれはてっきり......最後の最後まで、命尽きるまで主君の護衛をする覚悟って意味だとばかり......さすが、騎士のかがみだと......」クーガーは実にまじめな堅物なのだった。「まさか、あの忠義一徹のゼトが、主君である王女に、よもや、その、ごほん、け、け、懸想を、その、げほっ、げほげほ」
「クーガーったら!」ターナがおなかをかかえて笑う。「かわいいー!」エイリークもナプキンで口元をおさえて、ころころと笑っている。
「愉しそうですね」そっと現れたゼトが、真っ赤になって声を出せずにいる竜騎士を不思議そうに見ながら、礼儀正しく、控えめに声をかけてきた。「ターナ様、ヒーニアス王子がお呼びですが......」
「ありがとう、将軍。クーガー、行きましょ。うふふふふー。エイリーク、じゃあ、またあとでね」
 香り高い花の楽園で、ふたりきりになったゼトは、いきなり妻に飛びつかれて、おっと、と足を一歩引いて受け止める。「どうしました」桜色の耳元でそっと囁く。
「ゼト」エイリークは、夫の胸の中で少女のように笑った。「大好き!」
「はい」将軍は紅玉の瞳を細める。「はい」
「大好き、大好き、大好き!」
 ゼトが笑う。「どうしたのですか、いったい......」
 
 

ちびエイリークらぶらぶちびゼト拍手
 あとがき
 
 この話の回想シーンは、ジャハナ王宮を脱出して、追撃をかわしながら、砂漠越えをしているあたりのつもりで書きました。まだロストン聖騎士団全滅の報も届かず、グラド2将が主力全軍(しかも竜騎士)を率いてきていることも知らなかったので、そこまで絶望的な状況ではなく、とにかくなにがなんでも生きて、ロストンに逃げようとがんばっている最中......というつもり。
 このあとの話となる「灼けた砂」では、ゼトはエイリークを逃がすために捨石になる覚悟をしていますが、砂漠越えで体力をけずられ、消耗戦で兵力を失ったあげくに、ヴァルターたち竜騎士の大軍勢が来ていると知ったことで、ついに"砂漠で騎馬の自分がそばにいては、エイリークが竜騎士団から逃げられない"と判断し、あえて王女と別れる決心をした......と思うことにしました(だって、よくわからないんだもん)。

 で、"現在"のタイミングは、エフラムの結婚式のつもりです。ターナたちは結婚式の招待客。

コメントレス

別窓 | 碧風の優王女と真銀の聖騎士の思い出 | top↑
| 姫騎士戦記 |