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2008-04-09 Wed 11:50 |
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みやげは何がよいですか、と訊かれて、碧玉の姫君はにっこり笑った。「あなたがご無事でお戻りなら、何もいりません」
紅玉の将軍はため息をついた。「ああ、張り合いのない」 エイリークが夫の頬をつつく。「兄上の気持ちがおわかりでしょ。お城をくださる、領地をくださる、と言っても、あなたが何もかもお断りになるから」 ゼトはふっと微笑んだ。「わかりました。次にエフラム様が何かくださるとおっしゃった時には、受け取ることにいたしま......待ちなさい」手をたたいて立ち上がった妻の細い腕を引っぱって、再び隣に坐らせる。「いますぐ知らせなくてよろしい」 「だって」 将軍は妻のすべすべの頬を軽くつまんだ。「なにか、私がそれなりの功をなすか、特別な祝い事があるか、とにかく理由がなければ、いただくわけにはいかない」 「兄上が喜びますのに」エイリークは無邪気に残念がっていた。 ゼトは苦笑した。「何か欲しい物はないのですか。アイリスはリボンがいい、アダムはボールがほしいと言ってくれた。あなたも何かねだってください」 王女はにっこりと天使の笑顔を見せた。「あなたのくださる物なら、なんでも」 「......なんでも、というのがいちばん困る」ゼトはまた苦笑する。「選ぶのに苦労するのですよ。私はご婦人が何を好むのか、よくわからない」 「あら」エイリークは眼をくりっとさせる。「でも、わたしの好きなものはご存知でしょう?」 「なんですか」 サファイアの姫君は細い指の先を、男の形よいくちびるに当てた。「こ、れ」 「おや」ゼトは、ぐいと妻の身体を抱き寄せる。「それならそうと言ってくだされば」 「ちょ、ちょっと、んっ、あん......」真っ赤になって身をくねらせ、熱烈な接吻から逃れる。「も、戻って、無事に戻ってきて、また接吻してくださいと、そう言っているのです!」 「こらこら」ゼトがいたずらっぽく言って、また軽く接吻する。「大声を出すと、庭のアイリスたちに聞こえる。見られてもいいのですか」 王女はあわてて窓の外を見た。「んもう......またあとで」 「もう少し」 「ん......は......も、だめ」 そうして夫が旅立ってから、はや十日。 "妻へ。無事。心配無用。ゼト" 馬上で慌てて書いたのだろう、かなりの殴り書きだった。 三日前に届いた皺だらけの手紙を、サファイアの王女は何度も何度も読み返し、居間をうろうろと歩き回る。フレリア国境での戦闘を国王に報告する早馬に、ゼトがことづけてくれた。 夫の無事にほっとしたけれど、事後処理で帰りが遅れることはやはりさびしい。子供たちも、予定の日に父が戻れないと知って、がっかりしている。 「おかーしゃま」三歳の娘が、エイリークのドレスをぐいぐいひっぱっている。「おとーしゃま、きょう、かえゆ?」隣では、よちよち歩きの息子が指をくわえて立っている。 王女はしゃがみこんで、子供たちの身体に優しい腕を回した。「どうでしょう......」 「じゃあ、あした、かえゆ?」アイリスが期待に満ちた眼をあげてくる。「おとーしゃま、かえゆ?」 エイリークは子供たちの小さな頭をなでながら、一生懸命に笑いかける。「もうちょっと待ってね。お父様はお仕事があって......それに、おリボンやボールを買いにいったり......」 「じゃあ、あいーしゅ、おいぼんいらない。そしたら、おとーしゃま、しゅぐにかえゆ?」 空色の姫君は言葉につまった。「それは......もう少ししたら......」 赤毛のお姫様は地団太を踏む。「おいぼん、いらない、いらない、いらない! おとーしゃま、おとーしゃま!」 「こら。お母様を困らせるな」笑いまじりの声と共に、爽やかなラベンダーの香りが、居間の空気を一瞬で染めかえた。「なんだ、リボンはいらないのか、アイリス?」 「いゆー!」「いうー!」 長い右脚と左脚に抱きついてきた子供たちの頭をごしごしと乱暴になで、ゼトはそれぞれに包みを渡してやる。「ほら、開けてごらん」 大喜びで床に坐りこみ、ばりばりと包みを破り始める子供たちをちらりと見たゼトは、眼をうるませているエイリークを抱き寄せ、丁寧にくちびるに接吻した。「ただいま」 「おかえりなさい」はしゃいだ声を出した王女は、たくましい首に腕を回し、耳元で囁いた。「いちばん嬉しいおみやげです、ゼト」 将軍はほがらかに笑い、細い腰を抱いたまま長椅子に坐ると、持っていた紙の箱を手渡した。「それでも、開けるものがあったほうが、愉しいでしょう。たいした品ではないが、あなたのお好きなものだ」 そう言いながら、紅玉の眼を細め、美しいリボンを振り回す娘と、ボールを追いかけて走り回る息子を、なつかしそうにながめている。 「まあ、嬉しい!」粗末な箱を見れば、中身が宝石のたぐいではないことは一目瞭然で、子供のころのように、わくわくする。 ぐるぐると無造作にくくった紐をほどき、ふたを開けると、あらわれたのは、果物の砂糖漬け、焼き菓子の切れ端、砂糖菓子、そして、上等なキャラメルがひとつかみ。「まあ!」 ゼトは笑った。「一応、そのキャラメルは北の村の名物ですよ。あなたはどういうわけか、キャラメルがお好きのようだから」 エイリークは眼を丸くした。「あら、どうしてご存知?」 ゼトは妻のふっくらした頬をつまんだ。「私の引き出しから、ときどき盗み食いしているでしょう。減っていますよ」うふふ、と悪びれずに笑うエイリークの鼻を、ちょいとつつく。「まったく、悪い子だ」 「だって、好きなのですもの」 ゼトは不思議そうだった。「なぜこのような駄菓子を? 私も好きですが」 「なぜでも、好きなの」エイリークはつんとして、箱の中を指先でさぐる。「ほかのお菓子も買ってきてくださったの? おいしそう」 「うまかったですよ」ゼトは笑った。「泊まった館や、立ち寄った町で出された菓子です。あなたにも食べさせたいと、いや、あなたと一緒に食べたいと......うわ」急に抱きつかれて、慌てて子供たちを見やりながらも、嬉しそうだった。「もっとあったのですが、日持ちするものしか、持ち帰れなかった」 子供たちも、自分たちの包みの中で見つけた大きな菓子パンを、大喜びでかじっている。 「いいえ、いいえ、ありがとう、ゼト」エイリークは泣きそうになるのを我慢して、にっこり笑った。「ずっとわたしのことを考えていてくださったなんて、それだけで嬉しい」 ゼトが低い声でささやく。「考えていない時が、一瞬でもあったと思いますか」 エイリークが頬を赤らめる。「ほんと?」 「会いたかった」 「わたしも」 「こうして、抱きたかった」 「ああ、ゼト......」 将軍は紅玉の瞳で優しく見つめ、妻の甘いくちびるにそっと接吻し、ため息をついた。「早くふたりきりになりたい」 「まあ」エイリークが耳元でくすりと笑う。「いまはこれで十分です」 ゼトは妻の頬に軽く、くちびるをあてる。「子供たちがいては、接吻さえ思うようにできない」 王女が恋人の胸をつつく。「しているくせに」 「この程度で?」 「......あ......」首筋に濡れた感触がして、エイリークは吐息をもらす。「んもう」 菓子パンをほおばって、聞き取りづらいかわいい声がした。「ねー、アダムー。おみやげ、おいしーのー」 「おいしー」 ゼトとエイリークは抱き合ったまま、微笑みを浮かべる。 もぐもぐ、とかわいい声は続いた。「おかーしゃまのおみやげ、おかしなのー」 「おかし」 「あとでもらおうねー」 「うん」 ゼトがささやく。「少し隠しておきなさい。全部取られますよ」 「うふふ、大丈夫」 もぐもぐもぐ。「きょう、おとーしゃま、おかーしゃまに、たくしゃん、ちゅーしないのー」 「うん」 「いっちゅも、ひゃっかいくらい、ちゅーしてゆのにねー」 「うん」 黙りこんだエイリークの青い頭の上で、ゼトはくっくっと笑い出した。「見られていたのか。ははは」 「ははは、ではありません!」姫君がうなじまで真っ赤に染まって、夫を睨みつける。「だから何度も、アイリスちゃんに見られるから、同じお部屋にいる時に接吻してはいけませんと」 「やめた、やめた!」ゼトはいたずらっ子のような顔になった。「子供たちの前で、品行方正を気取ろうとしても無理だ。どうせ、もうぼろが出ている」 「なにを......きゃっ」 赤毛の騎士は、ぐっと王女を抱きしめた。「この先、何十年も、これほどかわいい妻と暮らすのに、いまのような息の詰まる愛しかたしかできないのではつまらない。やっと手に入れた、あなたなのに」 「......!」エイリークの頬が薔薇色に染まる。まあ、ゼトがそんなことを言ってくれるなんて。 将軍は、サファイアの姫君の顔をあげさせ、子供たちの眼もはばからずに、長い長い接吻をした。幸せな王女も逆らわずに、夫の肩にしがみついている。 「あー、ちゅーしてゆー」「うん」 エイリークがはにかんで小さく笑った。「ふ、ふふ。アイリスちゃんったら」 ゼトも笑う。「親が仲良くしている姿を子供に見せて、悪いことはない。いまごろ気づいた。もう、気を使うのは疲れた。今後は、子供たちが生まれる前の私に戻りましょう」 「まあ」エイリークが顔を輝かせる。「嬉しい、ゼト!」 「おいで」ゼトは妻の華奢な手首をつかんで立ち上がらせた。「あなたが欲しい。いますぐに」 「え」何を言われたのか一瞬理解できず、王女はきょとんとしている。 将軍は、敷物の上に坐って菓子パンを食べている子供たちを振り返った。「アイリス」 もぐもぐもぐ。「はあーい」 ゼトはほがらかに言う。「お父様はお母様に手伝ってもらって、着替えてくるから、1......2時間くらい、アダムをつれて外で遊んできなさい」 「はあーい!」 やっと、どういうことか理解できたエイリークが口を開きかける。「あ、アイリスちゃ」 ゼトは妻の手をぐっと握った。「さあ」 「あの、あの、あの」 「おかーしゃま、おかし、しゅこし、たべていい?」 「少しだけだぞ」 「ま、待って、あの」 「わあーい、あいがとう、おかーしゃま!」「おかし!」 ほどなく、寝室の扉が閉まり、がちゃりと鍵がかかると、居間には手と口のまわりをべたべたにした、上機嫌な子供たちだけが残されたのであった。
あとがき
もともと3歳児ネタというのは、ほとんど考えていなかったので、ヘイデン様が来てくれたことで、奇蹟のように何話か続けられたのですが、ついに限界がきてしまいました。6歳くらいにワープする前に、なにかしめくくりのような話を書きたいと思って、あれこれ考えたのですが、テーマがきまらなくて困っていました。 それで、とりあえずオープニングで夫婦にいちゃいちゃさせてみたところ、やっぱり自分でも書いていて楽しいのは、ラブラブ夫婦だよな〜、と実感。というわけで、今後、マギ・ヴァル一のバカップル夫婦めざして、軌道を修正しておくことしました。最近、よき父、よき母みたいになりすぎてたな〜、と。 今後は子供たちの前でも、エロ全開将軍でいきますよ。(いいのか) 余談ですが、タイトルをつけたあとに、リーダーズで「意味的にはあってるよな」と調べてみたら、スラングで”女性の放送禁止用語”という意味もあったので、むむむ、こないだのいん○うに続いて、しものタイトルをつけてしまったぞ、と。えーん、わざとじゃないんだよう。 コメントレス |
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